1. 概要
今回はECサイト構築プロダクトの代表例であるMagentoプラットフォームの開発環境をローカルでDockerを使って構築する方法を紹介します。Magentoとは利用者にユーザ管理、カートシステム、及び決済方法をはじめ、高度な機能と柔軟な変更性を提供したECサイトのプラットフォームです。本記事では、Magentoをダウンロードし、インストールする方法をまとめています。環境構築をポータブルで、扱いやすくするためにdocker-composeを使っています。
本記事内容
- Magentoとは
- 本記事を読む前提知識
- 構築環境準備
- 環境のデザイン・設計
- 実装
- 構築手順
- 考察・まとめ
2. 本記事を読む前提知識
本記事は以下のような読者の方に向けて書きました。
- ECサイトの構築、開発等に興味があり、新しいプラットフォームを探している人
- 新しいフレームワーク、プラットフォーム勉強が好きな人
- Magentoの開発、自作モジュールを勉強したい人
事前知識
以下の情報・知識について理解があることを前提としています
- linuxの基本的な知識(ターミナル上コマンドで基本的な操作できる)
- docker、 docker-composeコンテナー技術
- dockerは、仮想化・インフラ分野で注目されている技術
- docker-composeは複数のdockerコンテナーを一斉に管理できるようなツールです。複数のdockerコンテナーから構成される複雑システムをdockerのコマンドだけで操作・管理するのは膨大な作業になってしまう可能性があります。そこで、docker-composeがよく利用されている。docker-composeを使ったら1つのファイルに必要なコンテナーを記述して、docker-compose upという1つのコマンドを実行させるだけで環境が構築されます。
- nginx、php、composer
- nginxはサーバ上でウェブを立てるサービス
- composerはphp依存関係ライブラリを管理するシステム
- redis
- インメモリーデータベースシステムで、アクセス性能がいいのでキャッシュ用に使用されていることが多いです。
- elasticsearch
- 大量のデータ中で早く検索できるような技術
- microservice (マイクロサービス)
- dockerといったコンテナー技術の流行により、大きなシステムを構築する際に、複数の小さいサービスの組み合わせで構築する考え方が注目されています。これをマイクロサービスとよんでいます。マイクロサービスの利点として、開発・変更にはシステム全体ではなくて一部のサービスだけが対象となり、アジャイル的な開発に向いています。
3. Magentoとは
MagentoはPHPで開発され、Symfony、Laminas (バージョン2.3.4まではZend)等を利用した大規模ECサイト向けのプラットフォームです。本プラットフォームはオープンソースプロジェクトで、2018年にAdobeに買収されました。ライセンスとして無料版(Community version)と有料版(Enterprise version)があり、有料版の方にセキュリティー、性能性、利用性の観点からモジュールが追加されています。BuiltWith®サイトの調査によるとMagentoは世界中で利用されているプラットフォームのうち3番目になっています。
Magentoの主なメリットとデメリットは以下の通りです。
【利点】
・大規模性
・ECサイトに必須な機能の全てが揃っています
・要件によって柔軟に変更できます
・オープンソースなので、Communityバージョンを無料でも利用可能
【弱点】
・小規模なデータの扱いには向いていません
・非常に複雑なプラットフォームなので習得に時間がかかります
4. 構築環境準備
- dockerとdocker-composeのインストール
- このサイトのガイドに沿ってdockerとdocker-composeのインストール
- Magentoマーケットプレイスでアカウント作成
- このサイトに入ってアカウント作成する
- 作成したアカウントのアクセスキーを作成
- ログインした後に、このサイトにアクセスし、アクセスキーを作成
5. 環境のデザイン・設計
MagentoのECサイトを構築する際、以下のサービスを立てる必要があります:
- webサーバ構築に必要なサービス
- nginxサービス
- phpサービス
- データベースサービス
- Magentoサイトに利用するサービス
- redis:キャッシュサービス、セッション用とキャッシュ用で2つ必要
- elasticsearch:検索エンジン
したがって、今回はnginx、php、データベース、redis-session、redis-cache、elasticsearchといった6つのサービスをdockerで立てます。以下は環境のデザイン図になります。
以下にはブラウザからデータがどうやって流れて処理されていく手順を説明します:
- ユーザはブラウザからアクセスするときに、リクエストはnginxに80ポートで送信されます。
- nginxは、phpでの処理が必要なら(動的なコンテンツ)、phpに9000ポートで依頼を送信します。
- Magentoのほとんどの処理がphpコンテナー上で行われるが、処理中にredis-session、redis-cache、elasticsearch、データベースに接続します。
- 処理されたレスポンスがユーザのブラウザへ返却されます。
magentoのソースコードとデータベースのファイルをコンテナーと開発パソコンの間に共有した理由を以下に説明します:
- 開発中に編集したファイルをすぐにMagentoのdocker環境に反映させ、テストするのは開発の流れである。したがって、magentoソースコードをnginx、phpコンテナーと共有しました。
- データベースのボリュームを開発パソコンと共有することによって、この開発環境にデータベースも含めて一緒に他の開発者のパソコンに写したい場合、ファイルとしてコピーするだけで済みます。
6. 環境構築のdocker-composeファイル
本記事で使ったMagento開発環境構築のソースコードはこのgithubからアクセスできる。v0.1タグはちょうど本記事で利用したソースコードとなっています。上に書いてあるように、複数のdockerコンテナーを管理するためにdocker-composeを利用しました。以下に、docker-compose.ymlファイルを表示しています。
version: '3'
services:
# magentoをダウンロードするため
composer-install:
build: ./composer
volumes:
- ./html:/html:delegated
- ./config/composer/auth.json:/root/.composer/auth.json
# ウェブサーバ
nginx:
image: nginx:1.12
ports:
- 80:80
# magentoコードとnginx設定ファイルの共有
volumes:
- ./html:/var/www/html:delegated
- ./config/nginx/magento.conf:/etc/nginx/conf.d/default.conf:cached
links:
- php
depends_on:
- php
# phpサーバ
php:
build: ./php
volumes:
- ./html:/var/www/html:delegated
links:
- db
- redis-cache
- redis-sessions
- elasticsearch
depends_on:
- db
db:
image: mysql:5.7.31
volumes:
- ./db/data:/var/lib/mysql:delegated
environment:
MYSQL_ROOT_PASSWORD: root
MYSQL_DATABASE: magento
elasticsearch:
image: elasticsearch:7.9.0
environment:
- discovery.type=single-node
redis-cache:
image: redis:alpine
redis-sessions:
image: redis:alpine
nginxサービス
ベースはnginx:1.12イメージで、開発パソコンから80ポートで接続できるようにしています。magentoソースコード(html)をコンテナー上では/var/www/htmlにマウントしています。さらに、このコンテナーはphpコンテナーに接続します(links: -php)。
phpサービス
ベースはphp/Dockerfileになっています。自作のDockerfileでコンテナーを作成している理由は、magentoを動かすために複数のphpパッケージが必要となります。したがって、Dockerfileでphp:7.2-fpmコンテナー上にmagento動作に必要なパッケージをインストールしています。このコンテナーにもmagentoソースコードをマウントしています。さらに、phpコンテナーはdb、redis-cache、redis-sessions、elasticsearchコンテナーに接続します。
elasticsearch、redis-cache、redis-sessionsサービス
基本的にはデフォルトの設定で使うので、定義がベースとなるイメージを設定するだけで良いです。
7. 構築手順
本記事の作業は以下のようなラップトップを開発パソコンとして利用しました。
パソコンモデル | MacBook Pro |
プロセッサー | 2.3 GHz Dual-Core Intel Core i5 |
メモリー | 16 GB |
オペレーティングシステム | MacOS Catalina Version 10.15.7 |
Dockerアプリケーション | docker desktop v2.3.0.5 |
Magentoソースコードのダウンロード
まずは、このgithubから本記事で利用したソースコードをクローン・ダウンロードします。以下にはソースコードを置いた場所を「ルートフォルダ」とします。
以下には色々なdocker、docker-compose、シェルスクリプトのコマンドをターミナル上で動かす必要があるが、それらをターミナル上でcdコマンドでgithubからのソースコードをおいた「ルートフォルダ」の中で実行しています。したがって、読者はcdコマンドを使って予め、ターミナル上で現在フォルダを「ルートフォルダ」に変更しておけば良いです。
$ cd ルートフォルダ ← 現在フォルダをルートフォルダに変更します
1.magentoのソースコードをcomposerを使って「ルートフォルダ/html」の下にダウンロードします。composerを実行させるためのコンテナーをdocker-composeの中に準備してあります。composerの実行には認証が必要なので、「ルートフォルダ/config/composer/auth.json」ファイルの中身に4.で作成したアクセスキーをコピーする必要があります。
{
"http-basic": {
"repo.magento.com": {
"username": "ここにパブリックキーをコピー",
"password": "ここにプライベートキーをコピー"
}
}
}
2.以下のコマンドをターミナル上で「ルートフォルダ」の下に実行させてmagento 2.3.5バージョンをcomposerを使ってダウンロードできます。このスクリプトの中にはcomposer-installというdockerコンテナーをたてその上にcomposerコマンドでmagentoソースコードをダウンロードするコードが入っています。
※magentoは大きいプラットフォームなので、コマンド実行には数分ぐらいかかります
$ sh magento_download.sh
Magentoのインストール
ダウンロードした後、ターミナル上で「ルートフォルダ」の下にdocker-compose upコマンドで環境を立てます。
$ docker-compose up
その後、magentoをインストールする必要があります。そのためには、phpコンテナー上でmagentoインストールコマンドを実行させる必要があるが、そのためにmagento_install.shスクリプトを準備しています。以下のようにコマンドをターミナル上で「ルートフォルダ」の下に実行させれば、magentoのインストールができます。
$ sh magento_install.sh
シェルの中身は以下のようになっています。そこで、アドミン画面にログインする情報を自分で設定場合は、ADMIN_EMAILとADMIN_PASSWORDの値を変更すれば良いです。
#!/bin/sh
# 各サービスの名前の指定
# もし,.envファイルの中身を変更したら
# こちらも変更する必要がある
PHP=magento_php_1
# DATABASE=magento_db_1
# admin画面にログインするための情報
ADMIN_USER_NAME='admin'
ADMIN_PASSWORD='Password1234'
ADMIN_EMAIL='huchka@sbworks.jp'
docker exec -it ${PHP} php -d memory_limit=-1 /var/www/html/bin/magento setup:install \
--db-host db --db-name magento --db-user root --db-password root --timezone 'Asia/Tokyo' --currency JPY --use-rewrites 1 --cleanup-database \
--backend-frontname admin --admin-firstname AdminFirstName --admin-lastname AdminLastName --admin-email ${ADMIN_EMAIL} \
--admin-user ${ADMIN_USER_NAME} --admin-password ${ADMIN_PASSWORD} --base-url 'http://127.0.0.1/' --language en_US \
--session-save=redis --session-save-redis-host=redis-sessions --session-save-redis-port=6379 --session-save-redis-db=0 --session-save-redis-password='' \
--cache-backend=redis --cache-backend-redis-server=redis-cache --cache-backend-redis-port=6379 --cache-backend-redis-db=0 \
--page-cache=redis --page-cache-redis-server=redis-cache --page-cache-redis-port=6379 --page-cache-redis-db=1 \
# elasticsearchの設定
docker exec -it ${PHP} php /var/www/html/bin/magento config:set catalog/search/engine 'elasticsearch7'
docker exec -it ${PHP} php /var/www/html/bin/magento config:set catalog/search/elasticsearch7_server_hostname 'elasticsearch'
テスト、動作確認
以上で、magentoのダウンロードとインストールが完了したので、ブラウザで127.0.0.1にアクセスしたら以下のような画面が表示されるはずです。
さらに、admin画面に入りたい場合127.0.0.1/adminにアクセスし、インストール時に設定したユーザ名(ADMIN_USER_NAME)とパスワード(ADMIN_PASSWORD)でログインできます。
Magentoはindexer管理、キャッシュ管理、デプロイモード管理等の設定を楽にするためにcliコマンドを標準で提供しています。しかし、標準コマンドをphpコンテナーに入って(docker exec -itコマンドで)実行させる必要があり、一々コンテナーに入るのは無駄な作業になります。したがって、magento_command.shというシェルを本記事の作業で用意しました。例えば、キャッシュの状況を表示するmagentoのコマンドは”php bin/magento cache:status”です。これを実行させるためには以下のコマンドを打つだけで済みます。以下の結果から、全ての種類のデータをキャッシュするように設定されていることが分かります。
$ sh magento_command.sh cache:status
Current status:
config: 1
layout: 1
block_html: 1
collections: 1
reflection: 1
db_ddl: 1
compiled_config: 1
eav: 1
customer_notification: 1
config_integration: 1
config_integration_api: 1
google_product: 1
full_page: 1
config_webservice: 1
translate: 1
vertex: 1
8. 考察・まとめ
Magentoはサイズ的に膨大なphpスクリプトから構成されている大きなプラットフォームです。したがって、開発中や本番ライブでの性能が問題となってくることが多いです。性能を上げるためには、redis、varnish、elasticsearch等のキャッシュサービスと検索エンジンを利用することを強くお勧めします。さらに、CPU周波数が高くて、SSDを持っているサーバ、パソコンを利用した方が良いです。例えば、AWS上で本番のサーバを構築しているならC5系のインスタンスが適しています。magentoの処理は多数のphpファイルを渡って実行されるように設計されており、例えば一つのレスポンスに対し、100以上のphpスクリプトが実行されているということもあるからです。
ラップトップ上のdockerでMagentoの開発環境を何も考えずに構築すると、性能がとても低くなり、開発・作業できないぐらいなものになるケースもあります。そのときに最初に確認するべきは、dockerのリソースの設定になります。本記事で使った設定は以下の写真のように、CPUとMemoryはラップトップの半分ずつにしています。
次に、dockerコンテナーへのマウント(共有)する方法について確認します。つまり、htmlフォルダをどんなモードでマウントしているかということです。基本的には、volumeのマウントをdelegatedにした方が良いです。この設定をしたら、dockerコンテナーの方がファイル書き込みがホストのファイルに反映されるのに遅延を入れて性能をあげています。
本記事ではMagentoプラットフォームの開発環境を構築する方法をまとめました。環境構築にはマイクロサービスとして流行っているdocker (docker-compose)を利用しました。